企画セッション
20日 (水)
<若手の会企画>
Open Science の現状
16:50~
北條 大樹 先生(東京大学)
Open Science Frameworkを用いたReproducibleな研究を目指して
近年、心理学を初めとする社会科学の諸領域において、研究の再現性が問題になっている。研究の再現性を高めること、これを示すことは決して受動的にできることではない。これからの時代は、自らの研究が信頼されうる研究であることを積極的に示すことが必要になる。本セッションでは、再現性の問題について簡単に振り返りつつ、自身の研究がReproducible(再現可能)な研究であること、すなわち信頼されうる研究であることを示す方法について解説し、実践する。具体的には、Open Science FrameworkというWebサイトを使用し、研究の目的・方法の再現性と結果の再現性を高める方法について解説し、これらを実際に動かし、その簡便性を体感してもらう。最終的に本セッションの参加者が、この日から再現性を高める研究を実践できることを目指す。
17:40~
Warrick Roseboom 先生(University of Sussex)
Towards transparent science -
an example study investigating human time perception
Psychological science has an issue with being a cumulative science, demonstrated strongly in the “replication crisis”. Vision science is better than most fields, but still has a problem with non-trivial theory - classic models of e.g. adaptation, colour opponency, etc are good, but explanations remain local and modular. Deep learning approaches show potential to increase model scale and allow cognitive models to be built on top of reasonable basic processing solutions. I will outline our recent work combining deep learning, cognitive modelling, and neuroimaging to understand human subjective time perception at a natural scale, using our work as a case study in efforts to become transparent in our scientific output.
オンライン・リモート実験の方法論と実例
21日 (木)
10:30~
眞嶋 良全 先生(北星学園大学)
実験協力者募集ツールとしてのクラウドソーシング
実験や調査をオンラインで行うときにサンプルを集める手段として、SNS やメールなどを通じてボランティアを募る、調査会社のパネルを利用する方法の他に、クラウドソーシング・サービスを使う方法がある。開始から10年ほどが経過した我が国におけるクラウドソーシング・サービスでも、学術研究用途での利用が増加している。クラウドソーシングを利用することのメリットは、比較的大きなサンプルに、より迅速に、かつ低コストでアクセスできると言う点に集約される。
本講演では、クラウドソーシングが、心理学や隣接領域の実証研究にどのように導入されているか、クラウドソーシングでは何ができるのか、クラウドソーシングの導入が実証研究のあり方をどのように変えたのか(変えそうなのか)について解説する。また、発表者自身の経験から感じた、この手法のメリット・デメリットや、これからのオンライン実験に望まれることについて考えてみたい。
11:10~
黒木 大一朗 先生(九州大学)
jsPsychを用いたオンライン実験環境構築の実践
jsPsych (de Leeuw, 2015) は、行動実験(調査)をオンラインで実施するためのJavaScriptライブラリである。オンラインに限らないが、私たちが実施しようとする実験の多くは、刺激の呈示方法や反応の取得方法の点で定型化されていることが多い。jsPsychを使用することで、定型化された部分のプログラミングを簡略化することが可能である。さらにjsPsychではプラグインを導入することで様々な実験に対応させることが可能である。本講演ではjsPsychの導入から簡易的なプログラムを作成するところまで、チュートリアルの形式でお話をする予定である。また心理物理学実験の実施に主眼を置いたプラグインjspsych-psychophysics (Kuroki, 2020) もあわせてご紹介したい。このプラグインを使用することで、通常のjsPsychに比べて複数の視覚刺激をより簡単に、そして時間的により正確に呈示することが可能になる。jsPsychは他のオンライン実験ツール(例えばPsychoPyなど)に比べるとプログラミングの知識を要するが、その分自由度の高いツールといえよう。
※本講演はチュートリアル形式であるため、事前にGoogle Chrome および Visual Studio Code をインストールしていただくと、講演中にご自身のPCでプログラムを動作させることが可能となります
11:50~
細川 研知 先生(立命館大学)
リモート実験の制限を緩和する実例の紹介と方法の検討
心理学実験をリモートで実施する上で、最も大きな問題になるのは、実験室で行っていたような環境統制が困難になることである。例えば、参加者によって使用するデバイスの処理能力や大きさ、表示精度、室内環境はしばしば大きく異なる。この問題への回避策は主に二つある。一つは、実物を利用した統制のお願いやブラウザやデバイスの機能によって可能な限り環境を統制するという方向性である。もう一つは、環境を統制せずとも許容可能な実験や、環境を統制しないことに意義がある実験を行うという方向性である。次いで、特に知覚実験では、刺激の言語化に限界があるため、教示時のコミュニケーション不足による課題理解の不足の問題も起きやすい。これについてはリモート実験特有のサポートが必要になる。本講演では、これらリモート実験特有の問題と解消法を、実例を交えながら紹介し、リモート実施でどこまでの実験ができるかについて検討する。
視覚・脳科学への計算論的アプローチの最前線
21日 (木)
15:00~
島崎 秀昭 先生(北海道大学)
脳への計算論的アプローチ概説: 視覚野の理論を中心に
本講演では脳の計算論の発展の歴史を回路・情報・原理の3つの視点から紹介する。脳の回路と情報表現に対する理解は、高い変動性を示す神経スパイク活動を実現する回路・その制約下での情報処理、これら双方の解明を目指す過去20年の試みの中で深化してきた。その結果発見された興奮ー抑制の均衡ネットワークや我々の認識を制限する冗長な情報表現を紹介し、現在の大規模計測技術による検証を紹介する。脳の原理的記述には効率的符号化仮説・情報量最大化原理・スパース符号化等のさらに古い歴史があるが、現在では外界のモデル(生成モデル)が脳に構築されるとするベイズ脳仮説に基づく記述に集約されつつある。近年この理論は、環境に対する働きかけを推論の枠組みに取り入れ、認識と行動の一体的理解を目指す「自由エネルギー原理」に拡張され、統一的な視点から回路・情報そして学習を見直す動きが広がっている。講演では現在に至る背景を紹介する。
16:00~
林 隆介 先生(産業技術総合研究所)
視覚野の計算モデル: 教師なし学習手法による視覚情報の表現分離
物体認識に関わる視覚情報処理は、腹側視覚経路と呼ばれる後頭葉~下側頭葉に沿った関連領野において並列階層的に処理されることが知られている。近年では、一般物体認識を達成するよう訓練されたDeep Convolutional Neural Network(以下DCNN)が、腹側視覚経路と非常によく似た情報表現を獲得していることが明らかになっている(Krizhevsky et al., 2012, Hayashi & Nishimoto, 2013, Yamins et al., 2014)。最新の研究では(Bao et al., 2020)、下側頭葉が、DCNN高次層を圧縮した情報表現空間をカバーする複数の機能的ネットワークに分かれており、いずれも処理階層が進むにつれ、物体情報は、方位依存的な表現から方位に依存しない表現へと変化することを報告している。しかしながら、こうした神経情報表現は、物体属性のラベル情報を使わず、自然な視覚入力から教師なし学習プロセスによって獲得されると想定される。本講演では、生成モデルやクラスタモデルを中心として、教師なし学習手法に基づく関連研究を紹介する。
16:30~
吉本 潤一郎 先生(奈良先端科学技術大学院大学)
強化学習理論から迫る脳の意思決定と情動
強化学習とは環境とのインタラクションを通して試行錯誤的に最適な戦略や行動選択則を獲得する機械学習法の枠組みである。近年、人間エキスパートを超えるゲームエージェントの構築や自動運転などの工学的応用に関する要素技術として注目を集めている一方で、報酬に基づく生物の行動変容(報酬学習)や意思決定の様式をうまく説明できる神経回路の機能モデルとして、脳の情報処理の理解にも大きな貢献を果たしてきた。本講演では、学習理論やアルゴリズムという観点から強化学習における重要な式や変数を概説し、そのモデルを通して報酬学習遂行時に記録された神経活動データに対してどのような解釈づけができるのかについて議論された代表的な研究を紹介する。また、報酬学習の基盤となるシナプス可塑性がどのような神経細胞内のシグナル伝達やその動的特性によって実現し得るのかについて議論した我々のシミュレーション研究についても紹介する。